大喜利天文台 | |||
お題 | |||
「おもちゃで岩を破壊する」「おもちゃで世界征服をたくらむ博士がいる」 とかならまだ良いが、いくらホビー漫画でもそれはやりすぎだ | |||
樹上歌人さんの作品 | |||
小学校の帰り道、塾に行く途中。ぼくタダシは、公園での騒ぎを目撃した。 「おとなしく、我が社の商品になっていただけますか?」 メガネをかけたスーツの男性が、手に持ったスマホから光線を打ちだしながら、ぼくと同じ小学生を追いまわしている。 「なんだあれ……」 すると男性の目の前に、見知った同級生の男の子が立ちはだかった。 「いいや『ホイジンガ社』、嫌がる人をむりやりおもちゃに変えちまうなんて、ぜったい許さねえ!」 「ハヤトくん!」 「タダシ、ちょうどいいところに! オレがこのベルトで変身して戦うから、手伝ってくれ!」 そう言って彼は腰のおもちゃのベルトのスイッチを押した。すると彼はいきなり光に包まれる。『次に遊びたい子は、いい子で待っててね!』という機械音とともにベルトが光の帯を放ち、暴れる社員を拘束した。 「手伝うって、どうやって!?」 「俺が<おもちゃ>に変身するから、タダシはオレで遊んでくれ!」 「ええっ!? 人間で遊ぶなんて、ぼくにはムリだよ!」 「いいから! 俺が変身した<おもちゃ>を見たら、タダシもすぐに遊びたくなるはずだ!」 タダシを包んでいた光が霧散する__が、タダシは何も変わっていないように見える。 「あれ!? 失敗しちまった……? もう一回だ!」 ううん、ハヤトくんの自信を砕くわけにはいかない。ぼくも全力で、ハヤトくんを<おもちゃ>にしなきゃ! 「ハヤトくん、もしかして今朝は寝坊しちゃったんじゃない?」 やにわにこう問いかけると、彼は 「えー、なんでバレてんだ!?」 と目をパチパチさせる。ぼくはそっと手を伸ばし、ハヤトくんの髪を撫でた。きれいな茶髪が、陽に照らされて光っている。 「えっとね、単純な推論だよ。ハヤトくん、よく見たら寝癖がついてるみたい。朝、髪を整える時間がなかったんだと思ったんだ」 もっと早く気がつくべきだった。ハヤトくんの、そこだけ重力が働いてなさそうなギザギザの髪型。いつもは「後ろから見て右」に傾いてるのに、今日は「前から見て右」に傾いてる! 「まだあるよ、ハヤトくん」 「まだあんのか!」 ぼくはハヤトくんの、もう秋口だというのに半袖のシャツの首元に触れる。薄手の白いシャツには黒い下着が、夏の小川の水底のように透けていて、ぼくはそのシャツの、いちばん上のボタンをゆっくりと外してから、彼にささやく。 「下着」 ぼくはそう言って、彼の首元にあったタグをひっぱりだす。彼の健康的な日焼け跡と、雪のように白い肌との境目が、すこし開いた胸のあたりに見えた。 「やっぱり、前後逆だよね」 「まじか! なんか苦しいと思った!」 ハヤトくんはのんきに言う。さて、この<おもちゃ>が、ぼくの予想どおりだとしたら。たぶん次でゲーム・セットだ。どうしようもなく胸がどきどきするのはたぶん、このごろずっと勉強ばっかりで、ゲームやパズルで遊ぶことなんてなかったからかな? 「ちょっとじっとしててね……」 ぼくはハヤトくんの柔らかいくちびるに触れ、やさしくあごを押して口を開かせた。そしてその花めくくちびるの内側へと、心臓を高鳴らせながら顔を近づけていき__歯についた海苔を発見した。 ぼくはハヤトくんの耳に口を寄せて、ふたたびささやく。 「歯に、海苔」 その瞬間、ハヤトくんのベルトから盛大なファンファーレが鳴り、『遊んでくれてありがとう!』『遊んでくれてありがとう!』と機械音を叫びながら、巨大な光球を、身動きのとれない社員に向けて撃ち出した。 「おお! ちゃんと発動したぜ!」 「ハヤトくんは、<おもちゃ>に変身できなかったわけじゃない。きょうのハヤトくん自体が、<まちがいさがし>だったんだね」 ハヤトくんの光球でスマホを破壊された社員の人は、「お遊びはこのへんにしてやる〜」と言って逃げていった。 「オレで遊んでくれたのが、タダシでよかった!」 「そう言ってもらえるとぼくも嬉しいな」 そう笑いあって、どちらからともなくハイタッチしたのだった。 __それと同時に、どこかぼく自身を責めるような胸の痛みを、ぼくはハッキリと自覚していたと言わなければならない__ハヤトくんのくちびるに触れて、彼が今朝、歯みがきをすっぽかしたのを暴いたとき。ぼくはぼく自身の欲望のもとに、ハヤトくんを利用したのだ。「これは<まちがいさがし>だ」という自分の推論を確かめるためだけに、個人的な知的好奇心を満たすためだけに、彼のからだに無遠慮に踏みこんだのだ。 果たしてぼくは、金儲けのために一方的に人間を商品にしようとしているらしい『ホイジンガ社』のやつらとは違うって、胸を張って言えるだろうか? つづく | |||
◆この作品へコメントを投稿できます。 | |||
点 | 名前 | ||
3点 | 魂の裏切りの夜 | ||
2点 | お城 | ||
3点 | グッチ裕三の歯 | ||
4点 | 灰色こたつ | ||
2点 | 懐かしむ会 | ||
HOME|タイトルリスト |