| 長風呂はやめなよ。だって○○○ |
| 長風呂はやめなよ。だってルキウス、君は神に挑む事など望んでなかった。僕もまた、我儘で君が傷付けられるのが悔しかった。だからルキウス、物語はもう終わりなんだ――。僕らの村、アウレリアに天使が舞い降りたのは、何十年も前の事だ。村には一人の少年がいた。都市国家の軍勢が睨みをきかせている昨今、村は半ば壊滅していた。そんな村を、いずれ彼は背負って立つことを期待されていた。彼を見る期待の眼から、彼はその重みを知っていた。大人は皆、彼を絹に触れるように扱った。その遠慮じみた距離感を、彼は感じ取っていた。だから、彼にとって一番の友達は自ずとその天使になった。ある日、少年と天使は家畜小屋の隅で語らい合った。「僕は英雄になる。村の人は、僕が転べばすぐに飛んできて薬草を塗るけど、僕がつと流した涙を見て心底残念そうな顔をするんだ」天使はそんな僕の話をずっと聞いてくれた。「そんな思いをこの十数年抱えてきたというのか。君がそんな重荷を背負うのは間違っている」天使は言った。「君は男である事を望むか」その質問は僕の、いや私の心を強く揺さぶった。私は自分を男だと思ったことはなかった。父に剣技を習っていた時だった。振りかざした木刀が躱され、地面に倒れ込んだ私は、思わず受け身の姿勢を取った。それを見た父は怪訝そうに「お前は敵に相対したとき、女のように身を守るのか、ユリアヌスよ」と告げたのだ。それから、私は自分ではない誰かを操縦しているような心地になり、徐々に生活さえ覚束なくなった。天使が現れたのは、そんな矢先だった。私は答えた。「望まなくとも、望まれれば男になる」私の虚勢を知ってか、彼は言った。「では、望まれずに済むなら?」「そんなことができるの?」「できるさ。僕ならね――だから君は、男を棄てて良い」そして羽で私のことを包むと、私の顎を引っ張って言った。「だって、こんな美しい貌が勿体無い」――私が女装して現れた時、村の皆は一様に驚いた。天使の声が響く。「我々を脅かすあらゆる勢力に反撃する。諸君はただ成り行きを見ているだけで良い。僕が全て片付ける」――彼がローマの全都市国家を制圧し、「アウレリアのルキウス」と呼ばれるようになるまで、時間はかからなかった。王座に座ったルキウスは、妃として私を迎えた。私たちはその日も風呂に入っていた。彼は悩み事があると私と湯浴みをするのが習慣だった。しかしその日の彼はやけに長風呂だった。思わず彼にどうしたのか訊いた。「僕は天使でありながら地上の覇権を握った。それは本来僕の仕事じゃない。でも僕は、地上で暮らす内に知った。人間が争い合うのは飢饉のためで、それを引き起こしているのは天だ。僕は今まで君と平和に暮らすために戦ってきた。その務めを最後まで果たすつもりだ」「それって…」私はルキウスに身を寄せた。私の身体は、天使の力で女性の風貌になっていた。胸は膨らみ、腰にはくびれができた。「君はそこで見ているだけで良い。だから一つだけ約束してくれ。僕がたとえ悪魔に堕ちても、最後までついて来てくれると」そして彼は、私を抱き寄せた。私もそれに応じ、私たちは上気した浴場の床に転がる。そして私たちは、一つになった。――ルキウスが悶えていることに気付いたのは、情事が済んだ直後だった。見ると、羽を押さえ喘いでいる。「罰が当たった。天使の身で純潔を破った…当然の報いだ」私は声も出せずその光景を見ていた。彼は羽を失い、人間となった。私もまた、あることに気付いた。身体が、男に戻っている。私は…いや、僕が使用人として王宮への出入りを許されたのは僥倖だった。彼は力を失ってもなお天を堕とす野望を棄てていなかった。しかし彼は、別の脅威に気付いていなかった。隣国に攻め入られたローマが制圧されるまで、長くはかからなかった。彼は流刑に遭い、僕は懇願してついていった。流刑先でも、彼の野望は潰えず、彼は手製の槍を作り天に向けて投げていた。そんな彼を、僕は見ていられなかった。孤島で僕たちは老いていった。ある日、僕は提案をした。「川で水浴びをしようよ」「こんな老いぼれ二人が?」「そうだ、あの頃湯浴みをしたように、川で――」そうして僕たちは、川べりに座って長い時間語らいあった。「今でも感謝しているんだ」「当然の事をしたまでだ、それに天を堕とすのは僕の望みでもあった」彼は嘯く。「…嘘だ」僕は呟く。「君が望んだのは、平穏に暮らすこと。そこに僕がいるのが嬉しかった。だからこそ止められずにいた。でももう良いんだ。争いはここにはない。僕らは十分無事に暮らせたじゃないか。だからもう、終わりで良いんだよ」何も語らないルキウスの眼は、何よりも雄弁に彼の心を物語っていた。僕は立ち上がり、川の深くへと足を踏み入れる。そして振り向かないままで、彼にこう言った。――長風呂はやめなよ。だってルキウス、最後までついて行くって、約束しただろう? |
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| 点 | 名前 |
| 2点 | SBSB |
| 4点 | 樹上歌人 |
| 3点 | 空飛ぶタイヤ |
| 4点 | しろとら |
| 2点 | 大体いつも眠い人 |
| 2点 | ちんパール |
| 2点 | 魂の裏切りの夜 |
| 3点 | ハム |
| 2点 | みささぎ |
| 3点 | 荒ぶる波平 |
| 2点 | 光龍騎神サジット・アポロドラゴン |
| 2点 | 飛或 |
| 2点 | ちょくりんちょ |
| 2点 | uq |
| 2点 | かめおか |
| 4点 | pokopoko |
| 3点 | ドゥラちゃん |
| 2点 | エコノミー |
| 2点 | グッチ裕三の歯 |
| 3点 | あとひとつ流星群 |
| 2点 | Jac |
| 2点 | Dシンカー |